今年の紅白歌合戦で、
森進一は「
北の蛍」を歌う。阿久悠さんの代表作のひとつで、女の悲恋・情念をわずか26行の詩に私小説のごとく封じ込めた。
かきむしられるような想いの詰まる胸。乳房を破って、女の化身である赤い蛍が、どこまでも男を追いかけてゆく。ストーカーどころではない、ゾクッとくる詩が歌の世界に引き込む。
さまざまな試練があった森がどう歌うか見どころの1つだ。
阿久さんに取材したときに「世の中に秩序があった時代だからかえって、不良や不条理の世界がいくらでも描けた」と話していたことを思い出す。
今年の日本の歌をざっと振り返る。同じ趣味の仲間内でしかわからない“等身大”の世界を“タメ口(グチ)”で押しつけるシンガー・ソングライターが肩で風を切っている。それらを好きなようにパソコンからダウンロードする日常から、大衆の心をつかむ歌など永遠に生まれないだろう。
阿久さんというと
ピンク・レディー、
沢田研二、
桜田淳子などがパッと頭に浮かぶが、森に対しても実に70曲近い作品を残している。
「
北の蛍」をはじめ、「
さらば友よ」「
東京物語」など厳選16曲を収めた「
阿久悠作品集」(ビクター)。年末にこそ聴いてみたい。