マリア

 イエス・キリストを描いた映画は枚挙にいとまがないが、母マリアと父ヨセフがいかなる人物であったか、また処女懐胎そのものを描いた作品はおそらく本作が初だろう。

 聖なる子を身ごもったと神に告げられたマリアの戸惑い、葛藤(かつとう)しながら彼女を信じるに至る婚約者ヨセフが、等身大の人間として描き出される。だからこそ、目に見えない運命を信じる困難と勇気に気づかされ、彼らに敬愛の念を覚えずにいられない。誕生の瞬間は、その場に居合わせるような聖なる気持ちに包まれる。

 極端な宗教色を排除し、綿密なリサーチに基づいた実話や言い伝えを、誰もが見やすい人間ドラマとしてさりげなく差し出したことが最大の成功の秘(ひ)訣(けつ)だろう。プロダクションデザイナーを経て監督となったキャサリン・ハードウィックの、ロケとセットを巧みに組み合わせた撮影により、観客を瞬く間に紀元前〜1世紀にタイムスリップさせるリアルな映像の力も大きい。誕生の瞬間は絵画のような美しさ。クリスマスを祝う前に、人種や宗教を越え、見て損のない佳作だ。

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