今年の紅白歌合戦で、森進一は「北の蛍」を歌う。阿久悠さんの代表作のひとつで、女の悲恋・情念をわずか26行の詩に私小説のごとく封じ込めた。
かきむしられるような想いの詰まる胸。乳房を破って、女の化身である赤い蛍が、どこまでも男を追いかけてゆく。ストーカーどころではない、ゾクッとくる詩が歌の世界に引き込む。
さまざまな試練があった森がどう歌うか見どころの1つだ。
阿久さんに取材したときに「世の中に秩序があった時代だからかえって、不良や不条理の世界がいくらでも描けた」と話していたことを思い出す。
今年の日本の歌をざっと振り返る。同じ趣味の仲間内でしかわからない“等身大”の世界を“タメ口(グチ)”で押しつけるシンガー・ソングライターが肩で風を切っている。それらを好きなようにパソコンからダウンロードする日常から、大衆の心をつかむ歌など永遠に生まれないだろう。
阿久さんというとピンク・レディー、沢田研二、桜田淳子などがパッと頭に浮かぶが、森に対しても実に70曲近い作品を残している。
「北の蛍」をはじめ、「さらば友よ」「東京物語」など厳選16曲を収めた「阿久悠作品集」(ビクター)。年末にこそ聴いてみたい。
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当たり前だけれど、ロックンロールは、ある日突然生まれたわけではない。ルーツをたどれば、黒人霊歌やブルース、R&B、それにカントリー。生い立ちや取り巻く環境から自然と出てきた心の叫びや癒やしの声、さまざまなフィルターを経て今がある。
前置きが長くなったが米音楽業界の長老的ミュージシャン、ファッツ・ドミノ(79)を慕う29の豪華アーティストが参加した2枚組30曲入りの「ファッツ・ドミノ・トリビュート・アルバム」(キング)を聴くと、ロックが偶然の産物ではないことがよく分かる。
ジョン・レノン、エルトン・ジョン、ロバート・プラント、レニー・クラビッツ…ロックの連中も加わって、ブルージーにドミノの名曲をカバーしている。
中でも、地味だが耳を奪われるのが20年近いキャリアをもつ米女性カントリー歌手、ルシンダ・ウィリアムスの「ハニー・チリ」。アーシー(土臭く)で、オルタナティブ(型にはまらない)な歌声から、南部の光景が浮かぶようだ。
2005年のハリケーン・カトリーヌで甚大な被害を受け、一時は行方不明になりながら、無事救出されたドミノ。ニューオリンズの音楽文化の復興を願うミュージシャンからの分厚いクリスマスプレゼントだ。
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ビートルズの「イエスタディ」に次いで、世界中でカバーされている「イパネマの娘」。この名曲の生みの親、アントニオ・カルロス・ジョビンが今年、生誕80周年。
「イパネマみたいな曲を作りたいなー」と、沖縄・宮古島出身のシンガー・ソングライター、下地勇が作った「ネマの娘」も、おもしろい。
島のさとうきび畑で作業をしていると風が運んだ女性のいい香り。パイナマガ浜にロングヘアの美女がたたずんでいる。でもそれは、親戚の根間(ネマ)家の娘と分かってヤケ酒をグビグビ…。これをボサノバ調の宮古方言で歌うから痛快だ。アルバム「開拓者」(テイチク)に収録。
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ビートルズの「イエスタディ」に次いで、世界中でカバーされている「イパネマの娘」。この名曲の生みの親、ジョビンの生誕80周年を記念してブラジル生まれの日本人ボサノバ歌手、小野リサがニューアルバム「ザ・ミュージック・オブ・アントニオ・カルロス・ジョビン“イパネマ”」(エイベックス)を出した。ジョビン珠玉の15曲のトップを飾る「イパネマの娘」は、耳元で語りかけるように優しく歌う。
リオ・デ・ジャネイロ市内のイパネマ海岸で、砂浜を軽やかに歩く長身の美少女。心奪われたジョビンの届かぬ思いが浮かぶようだ。
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指揮者の帝王カラヤンがクラシック以外で認めた曲が2つある。
1つは我らが国歌「君が代」。1954年に初来日したとき、颯爽と指揮台に向かうと、NHK交響楽団が全員総立ちで「君が代」を演奏した。カラヤンは「世界の国家の中で、もっとも荘厳な曲」と賛辞をおくったという逸話がある。
そしてもう1曲が、ロックの金字塔、レッド・ツェッペリンの「天国への階段」だ。カラヤンは、「私がオーケストラで演奏するとしても、これ以上のアレンジはない名曲だ」と称えた。
そのツェッペリンが、11月26日、ロンドンで一度限りのチャリティーライブを行う。ドラマーは、ジョン・ボーナムの忘れ形見であるジェイソン・ボーナムだ。チケットは、慈善オークションで2枚で8万3000ポンド(1880万円)もの値がつき話題。そんな中、2枚組ベストアルバム「マザーシップ」と「永遠の詩(狂熱のライブ)〜【最強盤】」(ワーナー)が、リマスター盤CDで登場した。カラヤンをうならせた至高の8分間が蘇る。
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男性遍歴とワガママぶりではブリトニー・スピアーズに負けないジェニファー・ロペスの「ブレイヴ」(ソニー)も80年代風ソウルやテクノ満載。収録曲「ゴッタ・ビー・ゼア」にはモータウン時代のマイケル・ジャクソンの「アイ・ワナ・ビー・ホエア・ユー・アー」から歌声がまんまサンプリングされている。
ジェニファー・ロペス「ブレイヴ」
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「私はブリトニー、ビッチよ」と開き直った本人のナレーションで始まるブリトニー・スピアーズ久々のアルバム「ブラックアウト」(BMG、写真)。25歳にして結婚、出産、離婚、ドラッグ、そして2児の親権争い…と波瀾万丈すぎる半生を送ったブリちゃんには、もはや歌しかない。
収録曲では本人も気に入ってるという「ヘヴン・オン・アース」がオススメ。ブロンディやジョー・ジャクソンを思わせる1980年代ポップス風アレンジが心地よい。
親権争いで裁判所に提出した書類から分かった、月に1200万円もの夜遊び代が物議を醸した。CDが売れるとロクなことに使わない、とブリちゃんの側近は「買わないで!」とファンに訴えるが、残念ながら全米チャートを駆け上がっている。
ブリトニー「ブラックアウト」
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杏里の新譜「tears of anri」(ユニバーサル)はネットリクエストで選ばれた名曲カバーが11曲。スガシカオの「夜空ノムコウ」、小柳ゆきの「あなたのキスを数えましょう−」を彼女がさらりと歌いあげると、すべてが“涙唄”に聞こえるから不思議だ。
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これはもしかして吉田拓郎へのオマージュなのか。昨年つま恋にゲスト出演した中島みゆきの最新アルバム「I Love You’答えてくれ」(ヤマハ)は、子守歌がベースだった前作と打って変わって汗くさい骨太ソングが並んでいる。
ドラマの主題歌に提供した“男唄”の「本日、未熟者」は、TOKIOの長瀬よりもパンチがあるし、「背広の下のロックンロール」は「地上の星」に涙したサラリーマンが内ポケットにしのばせた情熱を奮い立たせる。
そして、ラストの11曲目を飾るタイトルナンバーでは、ガナリたてるような豪快さと字余りの歌詞が拓郎そのもの。再度の競演を願うファンは多いだろう。
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音のいいヘッドホンで秋の夜長に耳を傾けたいのが新進ギターデュオいちむじんのセカンドアルバム「ハルモニア」(ポニーキャニオン)=写真。
23歳の俊英クラシック・ギタリスト「宇高靖人&山下俊輔」によるデュオ。高知県立岡豊高校ギター部で2年のとき知り合い、ともに桐朋学園短大部に進んで昨年メジャーデビューした。いちむじん、とは土佐弁で「一生懸命」の意味。力強くつまびいた弦は、両耳に届いた瞬間、端正な1本の響きに紡がれる。
ドビュッシーの「月の光」に始まり、同じ高知出身でイタリアで活躍するギタリスト長岡克己の「一夢人」、最後のアイルランド民謡「ロンドンデリーの歌」までの11曲にはジャンルを超えた抒情感が濾過されている。
いちむじん「ハルモニア」
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